【ちちぶの人インタビュー:ギタリスト 笹久保 伸さん】未来に向かって武甲山のことを考えたい。


こんにちは、編集長のあざみっくすです。

今回の『ちちぶの人』は、秩父市在住、世界を股にかけるギタリスト「笹久保伸さん」です。
通算26枚ものCDをリリースし活躍の場を広げつつ、一方で「秩父前衛派」というアート活動をされていらっしゃいます。

その活動の中でも、秩父のシンボルである「武甲山」については強い想いを持っており、自身のFacebookなどでの発信が物議を醸すこともしばしば。

そんな活動の真意や想いを率直に知りたく、インタビューをさせていただきました!

 

世界的な音楽活動と秩父をフィールドにしたアート活動

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─── 本日はよろしくお願いします。まず、笹久保さんの経歴と音楽活動について伺えますか?

クラシックギターを演奏するギタリストで、南米のアンデス地方の音楽とクラシックの現代音楽の2つのジャンルで演奏しています。現在は日本だけに捉われず、海外へも活動を展開しています。

 

─── 音楽以外にも映画、美術など秩父地方にフォーカスした幅広いアートの活動もされていますが、そのあたりについても伺えますか?

 秩父の地域をフィールドに「秩父前衛派」というアート活動をしています。音楽だけでなく写真、映画、演劇など、ありとあらゆる”アート”の手段を使って、秩父から文化を発信しています。

 

─── どのようなきっかけで、「秩父前衛派」の活動を始められたんですか?

4年ほど留学で秩父を離れ、戻ってきてから改めて秩父を見ると、アートとして高いポテンシャルがあると感じたことがきっかけですね。

独特なエネルギーがあるんですよね、秩父には。
それはおそらく、『盆地』の地形が関係しているもの。閉鎖的で外から見えないその場所で、独自に文化が発達したのだと思います。

それもあってか、秩父にはアートに関わる方が非常に多いんです。陶芸家、音楽家、画家…6万人の規模の街なのに、こんなにアーティストがいることがすごいと思います。

そもそも歴史を遡ると、秩父では日本で唯一の革命と言われた「秩父事件」が起きています。歴史的に見ても”何か”が起きやすい土地だと思います。

 

そんな環境であることから、小さい街ながら「椹木野衣(さわらぎのい)さん」や「清水武甲さん」といった、人々を生み出しています。


※「椹木野衣(さわらぎのい)」=秩父市出身 美術批評家、多摩美術大学教授、吉田秀和賞受賞。
※「清水武甲」=秩父市出身 写真家

 

独自文化を持った秩父がアートを生み出す

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─── なぜそのような「何か」が起きやすい場所だと思いますか?

「盆地の田舎」というのは大きいかもしれませんね。秩父の人って「自分は自分、基本的には自分を曲げない」という素質があると思っています。
これが、「盆地の田舎」だからこそ生まれる独特の価値観だと思います。

そんな閉鎖的な場所だからこそ、信仰が多いことも挙げられます。大小合わせて300以上の祭りがあることがそれを裏付けています。

そういった、信仰がある街の中心にあるのが「武甲山」。武甲山は秩父の人にとっては生活とともにあった山です。

秩父のどこにいても武甲山が見えますし、秩父の学校の校歌には「武甲山」が必ず出てきます。
そして、先日の「秩父夜祭」も秩父神社の神体山である武甲山が大きく関係しています。

このように、武甲山は秩父の人々の生活ととも存在してきたのですが、石灰の採掘が進み、山の姿が変わっていくのに、多くの人がそれらを声に出していないことについて、個人的には違和感を持っています。


※武甲山は石灰岩の大鉱床であり、明治期から現在に至るまで山の採掘が進められている。

 

─── なるほど。一方の意見として、「武甲山の石灰石採掘がなければ、秩父はここまで発展しなかった。我々は武甲山の恩恵を受けて今に至る」という考え方もあると思いますがいかがですか?

はい、それはもちろんです。だから、今までのことを「どうこう」ということはありません。”これから”のことを考えたらいいと思っています。

確かに秩父は武甲山から恩恵を受けてきました。だからこそ、そろそろ武甲山に恩を返していくことも考えていいんじゃないかって思うんです。
僕自身、武甲山がなければ今のようなアートの活動ができなかったでしょうし、アートの観点でも恩恵を受けているわけです。

だからこそ、武甲山に対して何かしたいと思いますし、しっかりと向き合いたいということでもあると思います。

 

ただ、武甲山に対して真摯に意見を話し合おうという人はあまりいません。
だから僕は考える”きっかけを”作りたいんです。武甲山を信仰の対象としてきた秩父が、変わりきってしまう前に。

 

羊山公園にある武甲山の資料館。武甲山の石灰石が人々の身近な生活を支えていることも。

羊山公園にある武甲山の資料館。武甲山の石灰石が人々の身近な生活を支えていることも。

 

必要なのは「これから」を考えること

─── Facebookでは武甲山に対する強い想いと読み取れる発信が目立ちますが、具体的に武甲山に対してはどのようにしていくべきだと思いますか?

いろんな観点があります。最低限、今ある自然は残していったらいいかなと思います。天然記念物などもたくさんありますし、素晴らしい景色の場所もあります。

 

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─── あくまで、採掘をやめるという結論ありきではなく、「どうすればいいか」という建設的な考え、ということですね。               

はい、文明の発展に産業は必要ですからね。それを否定するわけではありません。
現時点の自然を残して、産業を維持する方法を考えてもいいのかと。

ポイントは、武甲山に対して何かできることはないか、を模索することです。一番怖いのが、武甲山の採掘が進んで武甲山の変化に気づけなくなることです。

秩父のシンボル(秩父の人の心の山)であれば、一人一人が武甲山を大切にするための考えや、行動ができるんじゃないかって思うんです。
僕は「採掘をやめよう」という結論を一方的に出したいわけではなりません。向き合って、付き合い方を考えていこう、と提言していきたい。

例えば、採掘の量を減らして、採掘以外で収益を生み出す方法を考えてもいいんじゃないかなと。
極端な案ですが、例えば、武甲山の採掘場でアートのフェスをやるとか、登山して夜景を見るとか、いくらでもコンテンツは作れます。

あとは、みんなで武甲山に木を植えるプロジェクトをする、とかでもいいですよね。

本当、今生きている人が未来を向いてほしい、そう思います。

 

採掘がされる前の武甲山(編集長の自宅に保管されていた写真)

採掘がされる前の武甲山(編集長の自宅に保管されていた写真)

 

─── なるほど。色々と武甲山に対する思いを伺えて良かったです。笹久保さんは今度、武甲山に関する写真集を出版されるんですよね?

はい、写真集は秩父のアーティストと言う視点から武甲山へフォーカスしたものですが、ただ単に山の様子を撮るような作品にするつもりはなくて、武甲山をテーマに自分のアートへの探究心がむき出しになった作品になるのではないかと思います。
アーティストが社会を変えることはできませんが、何かのきっかけを作ることができると思います。
この写真集を子供たちに見てもらうことが僕の希望です。

今回クラウドファンディングで多くの方からご支援をいただき、目標額が達成でき非常に盛り上がっているところです。
みんなで、少しずつでも武甲山のことを考えていく、そんな方向に向かっていけたらいいなと思っています。

 

─── 本日はありがとうございました!

 


今回お話を伺って印象的だったのは、「採掘をやめろ!」という一方的な意見ではなく、これからできることを考えたい、という意見を持っていらっしゃること。
そこには、産業のためには採掘も仕方ない結論すらあり得ると、いうことでした。

感情に任せて意見を押し付けるわけではなく、実にロジカルで建設的な意見だと思います。

 

秩父に生まれた人、住んでいる人なら「武甲山」に何かしら特別な想いを寄せるものと思います。
どうしていくべきか、一人一人意見・結論は違うかもしれませんが、大切なことは僕たちの武甲山に対してちゃんと向き合うこと。それに尽きると思いました。

ぜひ、皆さんも「武甲山」に対して自分がどのような想いを持っているか、どんなことをすべきか、改めて考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

笹久保伸さんのプロフィール

現代音楽とアンデス音楽を演奏するギタリストとしてイタリア、ギリシャ、ブルガリア、キューバ、アルゼンチン、チリ、ボリビア、ペルーでソロ公演。

2004年~2007年、ペルーに在住しアンデスの農村で音楽を採集調査しながら演奏活動をおこない、ペルーでは13枚のCDをリリース。
2008 年、来日中のペルー大統領への演奏会。(在日ペルー大使館主催)
2008年頃より郷土をテーマとしたアート運動『秩父前衛派』を始め、音楽、映画、美術、演劇、写真、文筆、講演など様々な文脈で活動。秩父前衛派名義で8ミリフィルム映画を3作品発表。
2015年山形国際ドキュメンタリー映画祭にて映画「PYRAMID~破壊の記憶の走馬灯」上映。
2016年までにCD25枚をペルーと日本のレーベル各社からリリース。

アンデス音楽やアートについて早稲田大学、多摩美術大学、京都外国語大学、東京医科歯科大学などで特別講義をおこなうなど、演奏以外に講義活動もおこなう。
現代の作曲家と交流を持ち、高橋悠治、Sylvano Bussotti、Carlo Domeniconi、杉山洋一らの新作を初演。

笹久保さんのWebサイト

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