こんにちは、編集長のあざみっくすです。
今回は、秩父市内でイタリアンレストラン「ラボラトリーノ」を経営されているオーナーシェフ田中千尋さんにお話を伺いました。ラボラトリーノは、2015年にオープンした本格的なイタリアン、そして自然派ワインを提供するレストランです。
可能な限り自然農法や有機栽培の食材にこだわることが特徴で、オープンから2年経たずとも、常連客の方が多くいらっしゃいます。そんな食材へのこだわりには、オーナーシェフ田中千尋さん原体験が全ての背景にありました。
様々なことを突き詰めて生きてきた半生
-本日はよろしくお願いします。最初に、千尋さんが料理の道に入るまでの経緯をお話いただけますか?
経緯ですか…いろんなことがありましたからね…どこから話せば良いのか(笑)。
-いやいや(笑)、気軽に社会に出てからの経歴なんかを教えていただければと思います。
わかりました。10代の頃の話から始まりますが、高校3年生の頃にアメリカに渡り、映像、音楽、スケボーと様々なことをやっていました。その中でも、音楽活動はかなり本格的になり、アメリカから戻ってソニーのメジャーレーベルで活動をしていた時もあるんですよ。
−メジャーですか!すごい!どんな楽器をやっていたんですか?
楽器じゃなくて、唄ってたんですよ。結局はやめてしまいましたけどね。
−なんと!それは意外でした…いや、見た目がイケメンだから、全然、画になりますね。そんな順調だった音楽活動をなぜやめられたんですか?
やはり商業的な縛りのもと、表現をするのってとても難しかったんです。自分ではこうしたいのに、会社はこんな歌を唄ってくれ、とか…。自分のやりたいようにできないことが、とにかくストレスで…。正直、この時期は病みましたね。
−なるほど、そんな大変な思いをされたんですね…その後はどうされたんですか?
そこから焼き物の世界にのめり込みましたね。何よりも自分にしかできない作品にこだわっていました。それこそ土や釉薬の材料から自分で作っていましたし。病んでいた時期でしたから、この焼き物が精神的な落ち着きを与えてくれていたんです。ただ、その焼き物も長く続けられなくなってしまったんですね…
−えっ、それはなぜですか?
生まれつき持っていたアトピー性の皮膚炎が発症してしまったんです。焼き物をやると、手が1.5倍くらい腫れ上がってしまって…続けることはできませんでしたね。
そこから、安定した生活を送ろうと、メーカーの営業マンをやったりもしたのですが、やっぱりやりたいこととは違ったんです。
−なるほど、そうだったんですね。
営業マンをやめた時、ふと自分に残っているのは「食」しかないと思ったんです。
−なぜそこで「食」だったのでしょうか?
これは、僕の幼少時代の環境が関係していると思います。僕の育った家庭は、とにかく食にストイックだったんですよ。母は一時「マクロビ」を実践していたくらいですから!そんな家庭に育ったことから、食に対するベースの考え方や姿勢があったんでしょうね。美味しいものを作って、人に喜んでもらいたいと、そういう想いが立ち上がりました。
−紆余曲折、ようやく食の道に入るわけですね。
はい。最初は「七彩(しちさい)」という無化調ラーメンのパイオニアのお店で働き、ゼロから食を学んでいきました。
その頃、働いているお店以外でも、「食」の刺激を受けることが非常に多かったんです。中でも転機となったのは、親友がシェフを務めるイタリアンレストランに通ったことです。
彼の料理を食べる時、自分の知っている食材が不思議なくらい新しい感動的な味わいをしていることがあるんです。これには本当にワクワクドキドキしっぱなしでしたよ。そして、そのシェフが独立する時に「タダでもいいから働かせて欲しい!」と懇願して、一緒に店の立ち上げをすることになりました。
−なるほど。そんな原体験が今のラボラトリーノを作り上げていると思うと、ぐっときます!その後、秩父でラボラリトリーノをオープンしたんですね。
そうです、2015年9月にオープンしました。
感動を生む料理を作り続けたい
−そんなラボラトリーノではどんなことにこだわっていますか?
まずは、食材ですね。正直、コストをかけてでも良質な食材を選んでいるので、提供する料理の値段も安くはできません。
ただ、自分たちが食べる立場になった時に、残念な思いをするような料理だけはしないって決めてるんです。自分自身が「食」で人は感動できる、ということを肌で実感していたので、お客さんには残念な思いではなく、感動を味わってもらいたいと強く思っています。
−なるほど、自分自身が感動できないことは、人には提供できないということを貫いているんですね。
そうですね。また、食材は可能な限り自然農法のものを選んでいます。日本全国、しいたけならここ、ベビーリーフならここ、といった感じで、その食材に長けた生産者さんから仕入れています。それこそ、自分の目でその畑を見て、生産者の方にも直接会って、本当に信頼できる生産者さんかを確かめて仕入れるようにしています。
−千尋さん自身が「突き詰める人」だからこそ、そこに共感できる生産者さんがいらっしゃるんでしょうね。
▲生き生きとした、力強い野菜のサラダ
次に盛り付けにもかなり気を使っています。
料理って、見た目でテンションを上げることができるんです。「わあ、美味しそう!」と、まずは料理を見た時点で一つの喜びを与えられる。そこから実際に食べた時に、良い意味で見た目を裏切る味を届けることができます。この瞬間、人は料理で感動をするんです。
ビジュアルで楽しめる味と覆される味、このギャップがとてつもなく楽しいんですよ。そう、これが僕の追い求めているワクワクドキドキなんでしょうね。
先ほどお話した、親友のシェフが「食は食べる芸術だ」と言っていたのですが、まさにこのようなことが芸術なんじゃないかなって思います。
▲盛り付けの美しさは芸術的…
あとは、自然派ワインを提供していることです。以前、働いていたレストランで自然派ワインを扱っていて、その時に自分もソムリエの資格を取りました。
自然派ワインを飲んでいくうちに、一本一本にキャラクターを感じるようなったんです。商業的に人の手が加わったのではなく、自然の本来の味が引き立った感じ。活き活きとしたワインって本当に美味しくて、自分でも自然派ワインを扱おうと思ったんです。
−そんなこだわりのラボラトリーノさんでまずは食べて欲しい料理はありますか?
そうですね、ランチならぜひマルゲリータを味わっていただきたいです。そもそもピザは老若男女多くの方に好まれますし、当店のピザは全粒粉を使っているので、生地の旨味が格段に違います。
あとは、夜の料理もぜひコースで食べて欲しいですね。季節の前菜や時間をかけてじっくり火を入れるお肉、レストランらしいドルチェまで、ワクワク感のある料理構成を意識しています。
▲水牛のモッツァレラを使った「マルゲリータ」。とにかくミルキーでジューシーな味わいが特徴
お客さんと一緒に楽しむレストラン
−ラボラトリーノには常連客の方も多いと聞きましたが、お客さんとの接点の中で、大切にしていることはありますか?
そうですね、お客さんと一緒に料理を楽しむレストランにしたいと思っています。
例えば、当店をきっかけにワインを好きになっていただく方も多く、中にはワイン教室に通い始めた、という方もいらっしゃるんです!そういった方が「今度はどこの地方のこんなワインが飲みたい」と、レベルの高い要望をいただくようになると、こちらも本当に嬉しいですし、一緒に楽しめているな、と感じます。その瞬間、この仕事は最高に楽しいな!って思いますね。
よく、店の休みの日はワインの試飲会にも出かけ、新たなワインを探すようにしています。その中で、美菜子(千尋さんの奥さん)と、「あ、このワインはあのお客さんに飲ませてあげたいね」なんて会話をしながら選んだりしています。
▲ラボラトリーノには、選び抜かれた自然派ワインが常時置かれている
−わあ、すごい!お客さんの顔を思い浮かべながらワインを仕入れるなんてとても素敵ですね。
やっぱり、そうやってお客さんとは長い付き合いで、料理やワインを楽しんでいきたいと思ってます。
《美菜子さん》あ、そうそう、お客さんの中にはラボラトリーノで「苦手な食材が食べられるようになった」って言われることも多いんです。もともとトマトは苦手だったけど、コース料理の中にあって、食べて見たら驚くほど甘くて美味しかった!って感想をいただいたりしました。
▲嬉しそうにお客さんの反応を語る美菜子さん
秩父の子どもたちに、本来あるべき「食」を届けたい
−最後に、このお店が目指す方向はどのようなものでしょうか?
そうですね、秩父の子どもたちに、“本来あるべき食”を知ってもらい、それを残していきたいと思いますね。
−“本来あるべき食”ですか。
はい、先ほどお話しした通り、僕の家庭は食にとにかくストイックだったんですね。その反動か、大人になってファーストフードなどのジャンクな食べ物を好む時期があったのですが、次第に体が受け付けなくなって…。結果的に、手をかけた料理を食べる、健全な食生活に戻っていったんですよね。
その時、現代は簡単に大量生産をすることばかりを追い求めた“添加物だらけの食材”に溢れ、健全な食から遠ざかっていることに気づいたんです。
それを変えるが僕のミッションだと思っています。特に、子どもたちにはちゃんとした食を知ってもらいたいと思います。
ほら、子どもの頃に行ったことのあるレストランの記憶って、意外と鮮明じゃないですか?だから、子どもの頃に行ったレストランとして、ラボラトリーノがあってほしいし、そこで食べたものが健全な食べ物であれば、その子どもの将来の食も変わっていくんじゃないかって思うんですよ。
そういったレストランであり続けたいなと思っています。
−子どもたちの未来につながるレストラン、とても素敵です。本日はどうもありがとうございました!
お話を伺い感じたことは、千尋さんは何事も“突き詰める”方だな、ということでした。食にたどり着くまで、色々な道を歩まれていましたが、そのいずれの道でも自分が納得するまでとことんやり続ける、そんな姿を垣間見ました。
その“突き詰める”姿勢こそが、食材にもお客様にも現れ、結果的にラボラトリーノを愛する常連さんを生むのだと感じました。
千尋さんの想いが詰まったレストラン「ラボラトリーノ」。ぜひ味わいに行ってみてください!
また、ラボラトリーノで自然派ワインを楽しむイベントも開催されます!ぜひ、こちらもふるって参加してみてください!
2017年6月25日(日)開催 「自然派ワインのおいしい話」
田中千尋さんのプロフィール
1979年生まれ 秩父市出身。
高校3年生でアメリカに渡り、その後7年の間、映像・音楽・スケボーなどアートの活動に取り組む。
その後、日本に帰国。いくつかの職を経て、「食」の道へ。
2011年11月、「音楽と食の旅」に出て世界のあらゆる文化に触れる。
2012年6月、恩師のシェフがオーナーを務めるレストラン「ドン・ブラボー」の立ち上げに携わる。
2015年9月に独立、秩父市内にイタリアンレストラン「ラボラトリーノ」をオープン。妻の美菜子さんと店を経営している。