秩父皆野にある「森のようちえん 花の森こども園」は、山の中にあるまさに自然と共に学ぶようちえんです。
子どもの育て方については、いろいろな考え方がありますが、自然の中での体験を通して「自己教育力」を伸ばす、といったアプローチの教育は、興味深い考えです。
ぼくも先日、当園の「父親参加日」にお邪魔させていただき、生き生きとした表情の子ども、そして大人たちに触れ、「花の森こども園」の魅力に一気に引き込まれました。
今日は、この「花の森こども園」の代表 葭田(よしだ)あきこさんに、園の成り立ちや教育方針、子どもたちに対する想い、などを伺いました。
保護者が子どもと一緒に体験することで、園への理解が深まる
─── もともと、花の森こども園を始めることになったきっかけは何だったんですか?
葭田さん:9年前、あるきっけから5人の子どもを預かることになり、それぞれのお母さんたちと「自分たちでようちえんを始めよう!」と立ち上がったのが最初なんです。
※あるきっかけというが、もともと通わせていたようちえんの教育方針転換などがあったこと。自分たちで場所をさがして、ママ友の協力でこの場所を紹介してもらって始めた。
─── なるほど、お母さんたちでみずから始めたんですね!それもあるんでしょうか、今日「父親参加日」に参加してみて分かったのですが、保護者の方のモチベーションが高いように感じました。
葭田さん:はい、それは高いですね。保護者の参加型企画も多く開催してよく参加してもらっています。
保護者の方たちは「こうやって子どもたちが自然の中で育っていってるんだ」と体験することで、自分たち(葭田さんたち)の伝えたいことややりたいことを理解してもらえるんです。結果、それが園自体の理解につながり、行事にも積極的になったり、更に子どもたちのことを真剣に考えたり、それがモチベーションの高さにつながっているんだと思います。
ちなみに、そんな理解を得ているから、園で多少のけがや子どものケンカがなどがあっても、保護者からクレームになることはまずないんですね。いわゆるモンスターペアレンツがいないんです。
ちっちゃな傷で本当に大事に至らないだけの力をつけることができる。それができるのが今しかないんです。
体も心も、転ばないように傷つかないように育てて社会に出たところで、取り返しがつかないダメージを負ってしてしまうかもしれない。ちっちゃなけがや失敗を重ねていくのが幼児期だと思っていますし、それを保護者の方にも理解してもらっています。
実際に、すり傷や切り傷はありますが、骨折などの大きな怪我はない。
これは子どもたちが、天気、地面の様子、自分の体のコンディションなど、よくわかっているんです。
良い花を咲かせるためにも、根を張る時期が大事
─── なるほど。ちっちゃなけがや失敗が自らの経験となり糧となっているんですね。
葭田さん:そう、ものすごい小さな失敗の体験を積み重ねているから、子ども自身が危険なことを自発的に理解している状態なんです。
そして興味深いのが、これらを当然のように年が上の子どもは、下の子たちに伝統のように伝えていることなんです。
背中で太陽が雲に入って日が陰ったことを感じたり、森にはいると体感温度が下がるのを感じたり、キンモクセイの香りやコグラの巣作りの音に気づいたり…自然の中は感覚をすごく刺激してくれる環境なんです。
シナプスをいっぱい作っているこの幼い時期には体の内側を作っているものすごい重要な時期。
こどもはたくさん感じて、的確な言葉で表現します。
でもこの時期に得られるものは目に見えないんです。
点数もつかないし、具体的に何かができるといった、大人の目に映らないところが発達している時期なんです。環境を努めて用意したら、あとは大人は心配しなくて良いのです。信じること。子どもの発達はちゃんとプログラムされているのです。
それこそ、根っこを育てている時期なんですよね。普通、親たちは咲く花を見たい、それを期待しちゃうんですが、良い花を咲かせるために根がしっかり張れることが大事ですね。
植物がそうであるように、人も同じです。
─── この園のWebサイトに書いてあることですね。
「拙速に目に見える花を咲かせることばかりに心を奪われていると、その子は長じてどんなに恵まれた環境や名声を手にしても、もはや真の自由を得ることは出来ず、肥大した自尊心に苦しみ続けることになるでしょう。」─── 花の森こども園Webサイトより引用
葭田さん:はい、そうですね。そのことを分かっていると、体裁ではなくその子の本質を見るようになれるんです。
─── ここでの生きるための必要な経験をしておけば、何があっても生きていける力になりますからね(笑)
葭田さん:そう、幸せの感じ方についても同じことがいえます。他人との比較でしか物事をとらえられなくなってしまうんですよね。管理された社会や教育だと。
─── 確かに、物で満たされる幸せは、飽きちゃいますからね。いつまでも満たされることはない。
葭田さん:そうです、だから自ら生み出すことはもちろんそうですが、自然の一部として生かされていると感じていけることが大事なんです。
例えば、ここの子どもたちは、蛇口をひねって水が出る、という理解はしていないんです。水は山からくると思っている。
こんな自然と生きるという当たり前のことを、高度経済成長で人々は手放してしまっていました。仕組みがあることが当たり前の世の中。
でも、徐々に人々もその違和感に気づき始めていると思います。たぶん、震災もすごいターニングポイントだったかも。
子どもたちには「教え」ない。「気づく」仕掛けをする。
≪ある子どもがインタビューしているところにきて、「楓の枝が大きくなりすぎて、畑が日陰になっているから枝を切りたい」と葭田さんに話す≫
葭田さん:うん!よく気がついた!ちょうど大人たちが集まっているからやってもらおう!毎日ここで暮らしているからこその気づきですね。
─── いやあ、これですよ。子どもたちからこんな”気づき”が出てくるのがすごい。
葭田さん:そうそう、本当にマニュアルじゃないんですよね、“気づき”なんです、大切なのは。
基本的に私たちは、「教える」ということはしていないんです。子どもたちが「気づくことを仕掛ける」ということをやっています。
ここでの生活では、気づきをどんどん得ることができます。
昨日、咲いていなかった花が今日咲いているとか、そういったことを自分で見つけることの喜びを園児たちは知っているんです。
こんなこともありました。
ある子どもが、登園してすぐ、「そこですごいきれいな霜を見つけた!みんなで観に行こう!」とみんなに話したんです。
それで早速みんなでその場所に行ってみたら、すでに陽が当たって霜がなくなっていたんですね。「さっきまであったのに・・・」という儚さを自然と体感しているんです。こういう心躍ったり、儚さを感じたりすることを、子どもたちは、繰り返し毎日感じています。
─── すごい!「儚さ」を文字で覚えるのではなく、自然の中で見出すなんて。
葭田さん:そう。生き物は必ず等しく命が終わることも自然の中で知ります。
だからこそ、大事なことはしっかりと面と向かって話したり。いつか終わる命であることを理解しているからこそ、できる行動があります。
園でヤギを飼っているんですが、外でご飯を食べてると、このヤギたちが寄ってくるんですね。そして、子どもたちはそのヤギを一切排除しません。共存する道を常に探すことがベースになっているからなんです。
これは社会に出ても共通すること。人との距離の測り方、付き合い方。会社にはいっても気の合わない人やウマの合わない人と仕事をしなければいけないことなんて沢山あるじゃないですか。
その時に、他を排除するのではなく、どう共存するか、一緒にやっていくかを考える。
その証拠に、子どもたちは他の子に対して、「あいつは○○がすごい」と、良いところに着目し、尊敬をするんです。決して関係を断ち切るという選択はしない。
─── ああ、「あきらめない」ということに通じるかもしれませんね。どうやったらうまくいくのかという考え方ができるということは。ちなみに、園児は何人くらいなんですか?
葭田さん:今は18人です。
─── そうなんですね、でも今日はもっといるように見えますが。
葭田さん:ああ、卒園した子どもたちも参加しているからですよ。小学生、中学生とかでも来るんです、そしてすごい働いてくれる(笑)
─── なるほど。様子を見ていると、卒園生が今の子たちにいろいろ教えていたりしますよね。
葭田さん:そう、普段もよく遊びに来てくれて、縄跳びとかもやって見せてくれたりするんです。そうすると、園児たちは「小学生ってすげー!」ってなるんです!
ちょっとした、目上の人にあこがれや尊敬の念を抱くんですよね。
身近な人でなりたいとかすごいって思える人がいるのはすごく大事で、「生きていきたいな、ああいう風になりたいな」というのが生きる原動力になります。
─── たしかに、最近の子どもたちは身近な人でああなりたいって思ったりすること、なくなってしまっていますしね。
葭田さん:本当にそうだと思います。プロスポーツ選手や、有名アーティストではなく身近な人っていうのが大事。
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